相続・資産税コラム
2014年01月16日 第106回 遺言の氏名
公正証書遺言において遺言者欄に記載された文字が判読し難いものであったとしても、
民法969条4号の定める遺言者の署名の要件を満たしているとした高裁判決が出ました。
以下裁決記事転載です。
A の相続人であるX が、A が生前にしていた公正証書遺言の無効確認を求めた訴訟の
控訴審判決が大阪高裁であった(平成21年6月9日)。公正証書遺言においては、
遺言者が、筆記の正確なことを承認した後、署名、押印をすることとされているところ
(民法969条4号)、本件公正証書遺言におけるA の署名は判読困難なものであった ことから、
遺言者の署名と認めることができるか否かが争点となった。
一審判決(平成21年1月28日)は、A(甲野太郎)がした署名は、自己の氏名
ではなく、Y(甲野一夫)の名前を記載したもので、公正証書遺言においては、
本人認定のためにも正式な氏名でなければ要件を満たさないとし、本件遺言は無効であると判断した。
これに対し、本判決は、遺言者が自署する氏名とは、「戸籍上の氏名と同一で
あることを 要せず、通称、雅号、ペンネーム、芸名、屋号などであっても、それによって遺言者 本人の署名であることが
明らかになる記載であれば足りると解される」とした。
さらに、本件公正証書遺言の場合は、遺言者であるA が署名したこと
自体は明らかで あるとしたうえ、遺言者欄に記載された一連の文字の
最初の一文字は「甲」と読む ことが可能であり、
しかも全体として氏名の記載であることは明らかであるから、
本件公正証書は遺言者の署名の要件を満たしていると解するのが相当であると判断し
、一審判決を取消した上、X の本訴請求を棄却した。
以上、裁決事例転載です。